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事例:E-232

ラジエータ内の冷却水不足によるオーバーヒートの危険性と水垢の堆積したキャップについて

【整備車両】 
 SDR (2TV)  推定年式:1987年  参考走行距離:約8,800 km
【不具合の状態】 
 ラジエータの中の冷却水が不足している状態でした.またキャップに水垢が堆積していました.
【点検結果】 
 この車両はYSPで納車整備され,お客様が購入されたものです.購入後しばらく乗らずにいたためエンジンがかからなくなったということでメガスピードにて整備を承りました.点検整備の結果エンジンがかかるようになり,状態把握の為の試運転を行うことにしました.しかし私が見たものではないので,念のため冷却水の状態を確認したところ,著しく液量が足りない状態でした.

図1.1 著しく減ったラジエータ冷却水
 図1.1はラジエータキャップを開けて内部を確認した様子です.ラジエータ最上部のいわゆるフネと呼ばれる部分には全く冷却水がない状態でした.エア抜きされていない車両に乗ったことがあれば容易に分かることですが,少し走るといきなり水温計の針がHを振り切るくらい水温が上がります.エア抜きされていないだけでも,そのような状態になることを考えれば,このラジエータ冷却水の量で走行した場合,どのような結末が待っているかは想像に難くありません.ましてSDRは水温計がありませんから,もしインジケータランプの点灯に気付かずに走り続けた場合,エンジンが再生不能に近い状態に破損します.
 その場合,シリンダーやピストンをはじめ各部のパーツが絶版になっていることから,修理することは極めて難しいと言わざるを得ません.つまり,この手の車両はどれだけ現状をより良い状態に維持できるかが要となります.
 例えヤマハのディーラーで整備されたものであろうが,所詮は他人の仕事であり,自分の目で確かめたものでなければ信用できないのはこのためです.ラジエータキャップで密封された冷却水は,漏れなければ例え数年経過してもここまで減少することはありません.またリザーバタンクへつながるホースが最後まで差し込まれていないことも気になります.
 ともかく,この状態で走行しなくて良かった安堵すると同時に,改めて運行前点検の重要性を認識させられる事例となりました.



図1.2 水垢の堆積しているラジエータキャップ
 図1.2は水垢の堆積しているラジエータキャップの様子です.黄色の楕円で囲んだ部分はバキュームバルブに発生している亀裂です.過去の状況が不明なため,今回の整備で水垢の気持ち悪さの解消もかねて新品に交換しました.


【整備内容】
 
 ラジエータ内部に冷却水を補充し,キャップを新品に交換しました.

図2.1 新品のラジエータキャップと補充された冷却水
 図2.1はラジエータ内に冷却水を補充し,新品のラジエータキャップを取り付けている様子です.これによりオーバーヒートを防ぎ安心して乗ることができるようになりました.また抜けていたホースをきちんと取り付け万全を期しました.

図2.2 整備の完了したラジエータ廻り
 図2.2は新品のラジエータキャップおよび外れ止めのボルト,金具を同時に新品に交換した様子です.実際に試運転を行い,整備工場に戻ってエンジンが冷えてからキャップを外して内部を確認し,冷却水が口まで入っていることを確認しました.


【考察】 
 この車両はお客様が購入されて半年以上経過していますが,それくらいの保管期間で冷却水が大きく減少することは,通常はありません.今回は試運転する前に,点検したから良かったものの,もしそのまま乗っていたら非常に危険な状態でした.それは車両を破損させることだけでなく,エンジンがオーバーヒートして車両が停止した場合,路肩がない道路などでは後続車に轢かれる危険性があるからです.
 しかしそれは簡単な点検を実施すれば未然に防ぐことができるものです.特に自身の生命の安全だけでなく,周囲の交通に迷惑をかけない為にも,やはり運行前点検は非常に大切であると言えます.

 YSPで納車整備されたとする車両のラジエータの冷却水がなぜここまで減少していたのでしょうか.ラジエータ液は密封されていて,通常簡単には蒸発して減ることはありません.エンジン内部へ漏れたり,外部へ漏れ出している形跡も見られませんでした.このような事態に陥ったとき,私はよく自分の財布を思い出します.

    なぜ私の財布の中は空っぽなのか.答えは簡単です.最初っから入っていないからです.







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