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事例:E-177

ボルトの折れ込みによる排気チャンバの固定不良がもたらす排気漏れについて


【整備車両】

 RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考走行距離:約9,200km


【不具合の状態】

 シリンダと排気チャンバの付け根から排気漏れが発生していました.


【点検結果】

 
この車両は吹け上がりの悪い回転数が存在するという症状があり,

お客様のご依頼によりメガスピードにて各部整備を承ったものです.

ここでは排気漏れの発生していたエキゾーストチャンバについて記載します.



図1.1 ボルトの折れ込んでいる排気チャンバ付け根

 図1.1は1番シリンダ排気チャンバの付け根から排気漏れが発生している様子です.

進行方向左側の取り付けボルトが折れ込んでいるのを確認しました.




図1.2 固定されていない排気チャンバ付け根

 図1.2は排気チャンバ付け根を車体左側から見た様子です.

ボルトが内部で折れ込んでいるため,フランジが宙に浮いた状態でした.

この状態では排気チャンバは確実に固定されず,動いたすき間からオイルの混入した排気ガスが漏れ出してしまいます.



図1.4 汚染されている排気チャンバ取り付け部と折れ込んだボルト

 図1.4は排気チャンバを取り外したシリンダ側の様子です.

排気漏れしていたため下部に著しいオイル汚れが発生しています.

またボルトは面から1.5mm程度内部に折れ込んでいることを確認しました.



【整備内容】

 シリンダ内部に折れ込んでいるボルトの状態を確認するため,ボルトの洗浄から整備を開始しました.



図2.1 洗浄されたボルトの切断面

 図2.1は状態を詳細に確認するためにボルトの切断面を洗浄した様子です.

表面の状態は比較的均一であることからセンターを出すのには適している状態であると判断することができます.




図2.2 下穴の空けられた折れ込みボルト切断面

 図2.2は養生しながら逆ドリルを使用して折れ込んだボルトの切断面に下穴を空けた様子です.

エンジンが車載状態では作業が非常に難しいことから,慎重に慎重を重ねて進めました.



図2.3 エキストラクタによる折れ込みボルトの抜き取り

 図2.3は正確に作られた下穴にエキストラクタを使用してボルトを引き抜いている様子です.



図2.4 抜き取られた折れ込みボルト

 図2.4は折れ込んだボルトの抜き取り状況を車両左側面から見た様子です.

車載状態で作業環境が悪いものの,どこにも傷を付けずに綺麗且つ正確にボルトを抜き取りました.







図2.5 抜き取られた折れ込みボルト

 図2.5は抜き取られた折れ込みボルトの様子です.

ねじ溝が比較的状態が良いことから,雌ねじ側の状態も良好であることが期待できます.



図2.6 折れ込みボルト(下)と正常な新品ボルトの比較

 図2.6は折れ込んだボルト(下)と新品のボルトを比較した様子です.

丁度ボルトのねじ部全長の半分程度で切断されていることが分かります.

そして切断部位を考えれば,ねじ溝でロックしている部分とねじ溝から離れた部分の境目で均衡が崩れたことが分かります.



図2.7 タップによるねじ溝の修正

 図2.7はM8×P1.25のタップを使用してシリンダの雌ねじを修正している様子です.

大きな破損はないものの,奥のねじ山が崩れている部位があったため,タップを使用して修正しました.



図2.8 修理の完了した1番シリンダ左側の排気チャンバ取り付けボルト雌ねじ

 図2.8はタップにより修正されたねじ溝の様子です.

これによりボルトを確実に取り付けることができるようになりました.



図2.9 確実に固定された排気チャンバ

 図2.9は修正されたねじ溝に正確かつ確実に取り付けられた排気チャンバの様子です.

これによりチャンバの付け根がぐらつくことによる排気漏れを防止することができるようになりました.

またチャンバに関しては著しく腐食していた付け根の部位に耐熱塗装を行いました.



考察】

 2サイクルエンジン搭載車両では,この事例のように排気チャンバの取り付けボルトが折れ込んでいることが,

非常に多いといえます.

ボルトの使用部位として高熱と常温が繰り返されることや,2サイクルエンジン特有の振動等により,

ボルトが想像以上に過酷な状態で疲弊していることが原因であると推測されます.


 今回の修理では,ボルトが貫通していない構造であること,

そしてフロント廻りやラジエータ,フレーム等があり作業環境が悪いこと,

その他様々な要因により修正加工するのが難しい位置にありました.

シリンダ単体にすればより作業は楽になりますが,そのためには多くの工程を踏まなければならず,

おいそれと容易にできるものではありません.

したがって今回の修理も車載で加工を実施しました.


 結論から言えばメガスピードの技術にてどこにも傷をつけずにボルトを抜き取ることができましたが,

もしドリルで正確にボルトの中心に穴をあけられなかったり,

万が一エキストラクタが折れ込んだりしたら,それこそ終わりです.

その危険性は,折れ込んだボルトを抜き取るという作業をする限りは必ずついて回るリスクであり,

正確なボルト抜き取り技術が必要とされます.

そのような事態を避けるためにも,まず第一に排気ボルトを折らないことが大切です.

排気チャンバを脱着するために排気ボルトを取り外すという作業は一見単純に見えますが,

実際には非常にデリケートなものであるということを理解しなければなりません.





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