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事例:115

水垢の堆積している容器の白濁化した冷却水リザーバタンクについて


【整備車両】

 GSX1300RY (GW71A) "HAYABUSA" 隼 (ハヤブサ)  年式:2000年  参考走行距離:約22,400km


【不具合の状態】

 水垢が全体的に堆積していて,冷却水が汚染されている状態でした.

 また容器が白濁化していて冷却水の量が読みづらい状態でした.


【点検結果】

 この車両は走行距離が20,000kmを超えた為,リフレッシュ及び各所点検を兼ねて,

エンジンをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)したものです.

ここでは冷却系統の点検整備の際に取り外した冷却水リザーバタンクについて記載します.



図1.1 水垢の堆積している容器の白濁化したリザーバタンク

 図1.1は取り外した冷却水リザーバタンクの様子です.

内部の状態を把握し易い様に後方からライトで照らしたものですが,水垢と見られる堆積物が全体に付着して,

固まっていることが分かります.

これは走行距離よりも発売が2000年であることに注目されるべきであり,

内部に溜まった水垢はおそらく新車の状態から一度も洗浄されなかった為にこびりついたものであると判断できます.

この状態ではいくらラジエータ内部を洗浄しても,

エンジン冷却時においてラジエータが負圧になった際に戻される冷却水に水垢が混入することは避けられず,

厳密にいえばそれがエンジン内部の狭路に堆積すれば冷却不足を引き起こす可能性も排除できません.

またリザーバタンクの構成材料である樹脂そのものが劣化して白く濁っており,

内部の冷却水の量が見づらくなっていました.



図1.2 劣化したスポンジ

 図1.2は劣化してボロボロになったスポンジとリザーバタンク底部に堆積した水垢の様子です.

スポンジはアンダーカウルと接触する部位の緩衝材であり,この状態では十分にその役割を果たしていないといえます.

またリザーバタンク底部に堆積した水垢は,

ラジエータキャップのプレッシャバルブが開いた際に流出される冷却水ホースの取り付け部に一番近い部位であることからも

逆流に際して最も影響を受けるにもかかわらず,

タンクの最底であることから洗浄するのが困難であるという難しい条件にあります.


【整備内容】

 リザーバタンクを新品に交換し,カウルとの緩衝材である外側のスポンジ及び,

クラッチレリーズとの接触部に位置する緩衝材としての内側のスポンジも新品に交換しました.



図2.1 容器に貼り付けられた新品のスポンジ

 図2.1は新品のリザーバタンクに新品のスポンジを取り付けた様子です.

左アンダーカウルを締め付ける際に,リザーバタンクと接触しますが,

緩衝材が新しくなったことにより,お互いの樹脂部品が確実に保護される様になりました.

またクラッチレリーズ側も新品に交換されたことにより,

同様にカウル取り付け時の圧迫による接触からの保護が確実になりました.



図2.2 車体に取り付けられた新品のリザーバタンク

 図2.2は新品のリザーバタンクを車体に取り付けた様子です.

新品の容器は非常に美しく,白色ながらも透明で内部の冷却水を鮮明にうつしだし,容易に量を読み取ることができます.

水垢の心配もなく,内部洗浄されたラジエータやオーバーホールされたエンジンと合わせて,

楽しく走行することができるようになりました.




図2.3 アンダーカウル後方から見える新品のリザーバタンク

 図2.3はアンダーカウルを装着した様子です.

リザーバタンクはカウルを装着しても図の様に外側から見える位置にある為,

新品に交換されたことにより,状態の良い外装の美しさと相まって一層車体を引き締める役割を果たしています.


考察】

 この事例ではリザーバタンク及び劣化していたスポンジを新品に交換しました.

リザーバタンクに関しては,底部に堆積した水垢の完全な洗浄が難しいことや,

材料が劣化した為に白濁化していて冷却水の量が把握しづらいことから新品に交換しました.


 確かに機能改善が主目的ですが,部品供給のある状態であれば,

例えば私自身の車両を整備する場合には,

少なくとも白濁化したものを洗浄して再使用するという選択肢をとることはありません.

わずかな投資により新品に交換されたものは,見た目の美しさを含めればその価値は十分にあるといえ,

迷わず新品に交換しておきたいアイテムであると言い切ることができるからです.


 巷にはカスタムと称し,金属の高価な部品を無造作に取り付けた車両が見られますが,

カウルのすき間から白濁化して汚れたリザーバタンクを垣間見れば一気に興ざめし,

まったくバランスの取れていない哀れな車両に同情せざるを得ません.

白濁ならまだしも,全く手入れがされず20年以上経過したものは茶色になっている場合が少なくありません.

カスタムに関しては色々な見方や考えが存在するのは至極当然であるといえ,それは自由です.

しかし,ベースとなる車両が色あせていては,その上に何を着せても決して引き締まることはありません.

私の視点でいえば,高価な部品を付ける前に一歩立ち止まって,

機能の面からもまず経年劣化している樹脂類の見直しをしてみてはいかがでしょうか,

という提言をさせていただきたいのであり,それが美しさにつながる重要なポイントでもあります.


 この事例でいえば,図2.2で新品のリザーバタンクを取り付けたエンジン廻りが,

いかに美しいか理解していただけると思います.

もちろんこのエンジンはオーバーホールしたばかりなので外観の清潔さは言うまでもありませんが,

それを差し引いても,リザーバタンクに入っている50:50の冷却水の緑が色鮮やかであることは,

その際立った色彩まさに機能美であることに他なりません.


 この車両はトップブリッジやバックステップ,ハンドル,リヤフェンダ,マフラー等が高価な社外品に交換されており,

どれも美しい光沢を放っています.

そしてそれに見合ったオーバーホールされた清潔なエンジン,新品のリザーバタンクがあるからこそ,トータルで輝くのです.

しかしそうではなく,もし図1.1の状態のリザーバタンクがカウルのすき間から見えたらいかがでしょうか.

いくら高価な金属部品を盛りつけたところで,結局は汚れたリザーバタンクが目についてしまいます.


 私は錆や色あせを極端に嫌うので,車体を見た瞬間に,錆の位置と部品,劣化した樹脂が目に入ります.

逆にいえば,商品価値として車両をとられている為,特にその様なことに対して敏感であるともいえますが,

分かりやすく煎じ詰めれば,つまり,綺麗じゃないと嫌なのです.


 物事の価値判断はお客様それぞれなので,メガスピードでもまずは第一にお客様の意向を尊重します.

特に,古い車両では絶版部品ばかりで,整備の際にも部品の再使用がやむを得ない場合が実際には少なくありません.

しかしもしチャンスがあれば,白濁化あるいは茶褐色になってしまったリザーバタンクは新品に交換しておきたいものです.

機能のみならず,外観の美しさが加われば投資額に見合った価値はあるはずです.





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