トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例21~30)



クラッチワイヤの部分的断線によるクラッチ動力遮断機能の不具合について


【整備車両】

RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 推定年式:1983年  参考走行距離:9,400km


【不具合の状態】

1速ギヤに入れるとクラッチを握っても車両が進んでしまう場合がありました。

また変速時にシフトが硬くギヤが入りづらい場合がありました。


【点検結果】

症状から考えてまずはじめにクラッチワイヤの遊びの調整やレリーズの遊びの調整を行いました。

しかしすぐにクラッチが切れないあるいは切れにくい状態になりました。

外側からクラッチワイヤの見える部分を点検すると、レバー付近でワイヤの撚りがほどけているのが確認できました。

期間にしてひと月前、走行距離にして500km程前に点検したときは特に問題がないことを考えると、

その間に急にワイヤが損傷したものと推測できます。



図1は破損しているクラッチワイヤの外観です。

図1 、レバー取り付け付近のほどけているクラッチワイヤ

撚り線がほどけていて、外側からでも数本断線しているのが確認できました。



図2、タイコ付近のほどけたクラッチワイヤ

図2は取り外したクラッチワイヤのレバー取り付け部の様子です。

全部で7本の線が撚られて1本のワイヤを形成していますが、

本体から完全に2本が分岐、断線し、本体も3本がほどけて断線し、残りの2本がかろうじてタイコにつながっていました。

つまり7本中5本、率にして約71%が断線していました。

これではレバーの引きに対して正確なエンジン動力の断絶、接続を行うことは極めて難しいといえます。


【整備内容】

図3は新品のクラッチワイヤのレバー取り付け部付近を2方向から撮影した様子です。


図3、新品のレバー取り付け部付近のクラッチワイヤ

新品のクラッチワイヤの撚り線は図の様に一本のままタイコに接続されています。

今回はワイヤのほどけている割合や断線具合から、ケーブル内部も同等に摩耗していると判断し、

クラッチワイヤを新品に交換しました。



図4、レバーを握った状態の新品のクラッチワイヤ外観

図4は新品のクラッチワイヤを取り付け、レバーを握った状態です。

エンジンの動力の切断、接続、ミッションの変速等すべての動作が良好になり、

ライディングフィールが格段に向上しました。


【考察】

この事例では取り外して点検した段階で、7本ある線のうち5本が断線し、残りの2本のみタイコにつながっていました。

走行距離8,900kmの時点で点検したときには外観ではワイヤのほつれや錆等は見当たりませんでした。

その後、クラッチが切れにくくなるといった症状が発生し、レリーズの調整やワイヤの遊びの調整を行いましたが、

一旦改善しても、しばらくすると同じ症状に陥りました。

そこで、クラッチワイヤを点検した時に、ワイヤのほつれを発見しました。

前回の点検から走行距離500km、時間にして半月くらい経過したので、

その間にワイヤがほつれ断線して行ったと判断できます。

つまり、症状から考えると、

①クラッチワイヤがほつれ始めた為に遊びが増えた

②それによりレバーの握りに対してクラッチの切れが悪くなり、ギヤが入りにくくなったり、クラッチを握っても車両が前進した。

③増えた遊びをクラッチワイヤを張り、レリーズのがたを減らすことにより低減し、クラッチの引量を多くした。

④それにより、ほつれて伸びたワイヤを無理に引き、ワイヤに負担がかかり断線させた

その悪循環の繰り返しが起きていた。


以上の流れが推測できます。

この事例では、クラッチ廻りを調整してもすぐに遊びが増えることから異常と判断し、

ワイヤを取り外し断線を確認し、断線する前に整備することができました。

やはり調整して症状が改善してもすぐに同じ症状が繰り返される場合は、

抜本的な解決方法を取らなければなりません。

クラッチワイヤは車両が走行する為の最も重要な部品のひとつです。

もし完全に切れてしまえば例えエンジンがかかっても、

通常の走行方法の操作では発進や変速が行えなくなります。

ミッションがドグ方式であることを考慮しても、

安全に走行する為にはやはりきちんと動力を切ってギヤを変速することが求められます。



クラッチ機構が正確に作動していない場合は、ミッションの変速に大きな影響を及ぼします。

原因はクラッチ板廻り、クラッチ板を操作する機構に大別されます。

今回の事例は、クラッチワイヤの損傷が原因でした。

重要なのは、ワイヤが疲労している場合は、ケーブル内部も同等に消耗している場合が少なくないということです。

もしワイヤのみをろう付け修理しても、ケーブル内部の消耗がそのまま残れば、

操作感はスポイルされたままの状態が続く可能性が高いといえます。

新品で部品供給があれば、この様な状態に陥っている部品は新品にすることがベストといっても過言ではありません。

今回の整備では、ワイヤを新品に交換することにより、走行そのものが楽しくなるくらいフィーリングが向上しました。

エンジン動力の断絶、接続等クラッチの機能として新車の状態では当たり前のことでも、

製造後数十年経過した車両は機能もさることながら操作フィーリングの悪化が避けられません。

やはり極端に年式の古い車両は不具合を発する前の予防的整備を行うことにより、

水を得た魚の様に機能のみならずフィーリングが生き生きしてくる場合があります。

二輪自動車といった趣味性の強いものだからこそ走行フィールを大切にしたいというお客様のご要望に、

メガスピードは可能な限り対応させていただけるよう日々修理の事例を研究、考察し整備の向上につなげてまいります。





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