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事例:E-248

空燃比の狂いによる高回転不良と排気漏れがもたらすキャブレータの汚染について

【整備車両】 
 RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  参考走行距離:約8,200km
【不具合の状態】 
 高回転がスムーズに回らない状態でした.
【点検結果】 
 この車両は高回転がスムーズに回らないということでメガスピードにて整備を承ったものです.お客様に自走でお越しいただいたことから最低限の走行性能はあると判断できるものの,それはフェイルセーフの状態に等しく各部が要整備の状態でした.大きなものとして水温計の故障
 ※1 等もありましたが,ここではキャブレータの不具合について記載します.

図1.1 2番キャブレータから噴き出したガソリン
 図1.1はプラグの状態とエンジンの圧縮圧力を測定する為にキャブレータからエアパイプを取り外している様子です.図の様にわずかにエアパイプをずらしたところ,床に大量のガソリンが落ちました.この部位を開けたときにガソリンがびしょびしょになっている場合,不完全燃焼しているケースが少なくありません.

図1.2 不完全燃焼しているプラグ
 図1.2は状態を確認する為に取り外したプラグの様子です.4シリンダとも図の様にカーボンが堆積してドロドロになっていて正常に燃焼しているとは言い難い状態でした.

図1.3 エンジン圧縮測定
 図1.3はエンジンの圧縮圧力を測定している様子です.4気筒とも約1,000kPa程度あり非常に良好であることを確認しました.この段階で不適切な燃調による空燃比の狂いが不完全燃焼の原因であると判断し,キャブレータの点検に入りました.

図1.4 極度に汚染されている2番キャブレータ
 図1.4は2番キャブレータの様子です.進行方向側面が極度に汚れていて,もはやどれがキャブレータなのか意味が分からない状態でした.

図1.5 極度に汚染されている2番キャブレータ
 図1.5は4番キャブレータの様子です.やはりこれも汚染が激しく非常に汚い状態でした.赤色の四角で囲んだ部分はエアベントですが,ホースが完全に外れていました.

図1.6 極度に汚染されている3番キャブレータ
 図1.6は同様に酷い汚染状況の3番キャブレータの様子です.車体右側の2つに比べ汚染物質に湿り気があることが分かります.

図1.7 極度に汚染されている1番キャブレータ
 図1.7もやはり極度に汚染されている1番キャブレータの様子です.汚染度合いからキャブレータの性能そのものが懸念される状況でした.取り付けてあるホースやクリップ,スプリングも当時ものと推測される部品が多く使用されていて程度の悪い状態でした.
 このキャブレータは数年前に他店でオーバーホールされているものですが,どのような洗浄が行われたのか,そしてもし洗浄作業されていたとすれば,なぜ数年でこの様な著しい汚染状況に陥ってしまったのかを考える必要があります.

図1.8 排気漏れしている下側排気チャンバ付け根
 図1.8は排気漏れしている1番,2番シリンダの排気チャンバの接続部の様子です.排気漏れしたドス黒い液体が周囲に飛散して全体を汚染していることが分かります.キャブレータの汚染にもこの排気漏れが影響していることは想像に難くありません.

図1.9 セッティングの不適切なキャブレータ
 図1.9は4番キャブレータのフロートチャンバを取り外した様子です.空燃比が狂っていると判断しました.


【整備内容】
 キャブレータをオーバーホールし,最適な燃調セッティングを行いました.また排気漏れを修理し,再びキャブレータが汚染される大きな原因を除去しました.

図2.1 分解洗浄されたキャブレータボデー
 図2.1は分解して洗浄されたキャブレータボデーおよびスロットルバルブカバー,フロートチャンバの様子です.細部まで可能な限り洗浄して各ポートの貫通確認を徹底しました.

図2.2 新品のガスケットとボデー
 図2.2はスロットルバルブカバーに当社独自の新品のガスケットを取り付けた様子です.メインエアジェット等を確実に洗浄する為にはここまで分解しなければなりません.

図2.3 燃調変更されたキャブレータ
 図2.3は各部品を組み付け燃調セッティングを変更したキャブレータの様子です.これによりスムーズなエンジンの吹け上がりが可能になります.

図2.4 オーバーホールの完了した1番および3番キャブレータ
 図2.4はオーバーホール(分解整備・精密検査)の完了した1番および3番キャブレータをエンジンに取り付けた様子です.各ホースおよびクリップも同時に新品に交換し万全を期しました.

図2.5 オーバーホールの完了した2番および4番キャブレータ
 図2.5 はオーバーホール(分解整備・精密検査)の完了した2番および4番キャブレータをエンジンに取り付けた様子です.脱落していたエアベントホースも同時に新品に交換しました.汚染されていた分解前のキャブレータと比較して非常に美しく生まれ変わったことが分かります.

図2.6 排気漏れの修理されたエキゾーストチャンバ付け根
 図2.6は1番および2番シリンダのチャンバ接続部からの排気漏れを修理した様子です.高速を含めて合計200km程試運転を実施し,漏れがないことを確認しました.

図2.7 吹き返しの解消した2番キャブレータ
 図2.7は試運転したのちに取り外したエアパイプの様子です.ほとんど皆無と言って良い程にガソリンの吹き返しがありませんでした.非常に良い状態であると言えます.またキャブレータも美しい状態を保っていることが確認できます.

図2.8 理想的な焼け具合を示したスパークプラグ
 図2.8は試運転後に取り外したプラグの様子です.理想的なキツネ色に焼けていて無駄なベタつきもなく,非常に良好な状態で,力強くスムーズな加速を裏付けた形となりました.
 最終的に全体を点検し,問題がないことを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 今回の事例ではエンジンの高回転がスムーズに回らない原因は燃調セッティングが合っていないことでした.そして特徴的なのはキャブレータボデーの著しい汚染です.ガソリン漏れやオイル漏れに砂利等が付着しただけでなく,排気漏れで噴出したドス黒い液体が走行時に後方へ飛散してキャブレータに付着したと推測されますが,キャブレータのセッティングを変更するにもまずはキャブレータを取り外さなければなりません.しかしあまりにも汚な過ぎる為,セッティングの変更と同時にボデーの洗浄にも力を入れました.というのは,ボデーが汚れていると,どこから何が漏れているか分からない上,汚れが穴を塞いでいる可能性があるからです.そして並行して排気漏れを修理することにより,洗浄されて美しくなったキャブレータを再び汚染されることを防止する必要がありました.

 この事例でも故障診断の初期段階で圧縮圧力を測定しました.圧縮圧力の高低はエンジン特性に影響する大きなポイントです.例えばRG400ΓのエンジンK301型では680kPaのエンジンと780kPaのエンジン,880kPaのエンジンそして980kPaのエンジンと,同じエンジンでも圧力が変化すれば乗り味も変わります.優れた整備技術者に求められるのは,最低どのくらいあればエンジンがかかるのか,そしてどのくらいあれば良い加速ができるのか,また異常燃焼が発生し始めるのはどの位の高圧からなのか,等々数値から何を読み取り診断して予想できる能力です.ただ単に測定できれば良いと言うものではありません.例えば680kPaと一見低く見える数値もR1-Zの様な設計上圧縮比の低い車両のエンジンではそれが正常であるといったケースも存在します.つまりその車種その車種で,測定した数値をどう判断するのかが大切です.圧縮測定からその診断,そして今後の展望やご提案までを含めたもの一式が 『圧縮圧力測定』 なのです.

 RG400Γは言うまでもなく2サイクルエンジン搭載モデルです.特にスポーツモデルの2サイクルエンジンは高回転こそパワーの出る領域であり,それが満足に体感できなければ馬力の減らされた4サイクルエンジンに乗っているのと同じくらい退屈なことで,ましてスムーズに回らないのであれば非常にストレスになります.更に当該車両は水温計の故障で針が実際の温度をはるかに超える高温を指していた為,オーバーヒートを避けるべくセーブして乗られている状態でした.これでは楽しいはずのライディングが苦痛になります.それを是正すべく,キャブレータのセッティングを最適なものに変更し,水温計を新品のデジタルメータに交換して試運転を実施すると,驚くほど素直に意図した加速が得られ,また水温も実際には70度から85度程度の安定した数値であることが確認できました.中低速のトルクが豊かなのは圧縮圧力が4気筒とも1,000kPa程度あるのが主な要因であると考えられ,それが最適な燃調と一致して力強い加速を生み出していると言えます.


※1 H側への特性ずれによる水温計のオーバーヒート表示について





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