トップページ故障や不具合の修理事例【二輪自動車】 エンジン関係の故障、不具合、修理、整備の事例 (事例:171~180)


事例:E-180

フロートチャンバ取り付けスクリュの締め付けトルク不足によるガソリン漏れについて


【整備車両】

 RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考実走行距離:約9,200km


【不具合の状態】

 フロートチャンバ取り付けスクリュからガソリンが漏れ出していました.


【点検結果】

 この車両は吹け上がりの悪い回転数が存在するということでメガスピードにて整備を承ったものです.

今回の事例では,症状改善の為にキャブレータをオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)した際に確認した,

ガソリンがフロートチャンバ取り付けスクリュから漏れ出していることについて記載します.



図1.1 歪められているプレート

 図1.1はエアベントホースガイドプレートが歪められて取り付けられている
※1 様子です.

プレートの歪みも問題ですが,それ以上にその共締めのスクリュからガソリンが漏れ出していることが問題になります.



図1.2 スクリュから漏れ出したガソリン

 図1.2はスクリュのねじ溝から座面,頭部を伝ってフロートチャンバに漏れ出しているガソリンの様子です.

燃料漏れは車両火災の原因になるため,確実に防止しなければなりません.



図1.3 スクリュの締め付けトルクの検査

 図1.3は漏れの発生していたフロートチャンバがどのくらいの締め付けトルクで締結されていたかを,

検査用トルクレンチを用いて検査・確認している様子です.

通常は毎回検査するものではありませんが,スクリュを1本緩めた時に手応えが明らかに弱かったこと,

そしてスクリュからガソリンが漏れ出しているという事実から,

今回は残りのスクリュすべてにおいて検査を実施しました.



図1.3 検査用トルクレンチの表示

 図1.3はフロートチャンバ取り付けスクリュの締め付けトルクを測定した指針の様子です.

7箇所ほぼすべての補正後のトルクは約70CN-mであることから,

通常のトルクの約半分程度でしか締まっていなかったことになります.

これではスクリュの圧着が弱く,すき間からガソリンが漏れ出すのも無理はありません.


完全に締め付けトルクを無視した不適切な作業により,起こるべくしておこったガソリン漏れであるといえます.


 この様に測定機器を使用すれば,正確に締め付けられていたのか,

それともいい加減に適当な作業がされていたかはすぐに露呈します.

物事を判断する上で数値は非常に大切であり,メガスピードではこれを重要視します.

何事も“だろう”という推測ではいけないのです.



【整備内容】

 スクリュのスプリングワッシャはすでに潰れていて圧着性能が低下していた為,

各部を分解整備したのち,新品のスクリュワッシャを使用して規定トルクでフロートチャンバを締め付けました.



図2.1 トルクドライバを使用したフロートチャンバの締め付け

 図2.1はオーバーホール【overhaul】の完了したキャブレータのフロートチャンバを規定トルクで締め付けている様子です.

固着していたドレンボルト
※2 を含めて各部点検,修正,洗浄を実施したことから,

機能だけでなく,その見た目の美しさも取り戻すことができました.

図からも非常に美しいキャブレータの様子が理解できます.

他店では勘でフリーハンドで適当に取り付けられていることが多いこの部位において,

メガスピードではきちんとトルク管理を実施しています.

それが燃料を密封するために最低限必要な工程だからです.



図2.2 正しいトルクで締め付けられたフロートチャンバ

 図2.2は整備の完了したキャブレータをフロートチャンバ側から見た様子です.

規定トルクでフロートチャンバが取り付けられたことにより,ガソリン漏れを防ぐことが可能になりました.



考察】

 この車両はメガスピードにて整備を承る直前に他店でキャブレータが分解されている為,

フロートチャンバの締め付け不良はその時に発生したものであると断定することができます.

しかし他者の素人整備をどうこう記載しても意味がありませんし,何の価値もないことです.

他者の過ちを教訓に己が同じ轍を踏まない様に学習すれば良いだけです.

したがって,ここでは建設的な話を進めます.

まず第一に,ガソリン漏れは極力避けなければならず,今回の事例ではフロートチャンバのスクリュから漏れ出していました.

フロートチャンバに関しては,ボデーとの合わせ面とスクリュのねじ溝を伝った漏れという2パターンが存在しますが,

そのどちらでも,取り付けスクリュを規定トルクで締め付けていれば防げることです.


 私がキャブレータのオーバーホールと言う語句に対する安易な使用について懸念しているのはこのようなことです.

つまり,業者なりユーザーなりが自分ではオーバーホールしたつもりになっていても,

実際には不具合だらけの“作品”が少なくないということです.

もちろんすべてマニュアル通りではありません.

しかし基本に忠実であるのは最低限到達しなければならない水準であり,その上でプラスαの技術が求められるのです.

少なくとも今回の事例について述べれば,修理に出したはずのキャブレータが,

締め付け力が半分になって戻ってきた(納車された)のでは本末転倒です.

やはり機械物は基礎から正しく組み立てるべきであり,それが性能を発揮する一番の近道です.

それをおろそかにして形だけ出来ていれば良いというのでは,

どんなに見かけが立派なビルやデパートでも,容易に崩れてしまうことはすでに世界で証明されているのです.





※1 逆さまに付けられ更にねじられたエアベントホースガイドプレートについて

※2 腐敗したガソリンと錆の発生によるドレンボルトの固着となめた頭について






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