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事例:E-104

使用に伴うニードルジェットホルダの亀裂と空燃比の崩れについて


【整備車両】

 GSX250RCH (GJ72A) GSX-R250  推定年式:1987年  参考走行距離:約18,100km


【不具合の状態】

 エンジンの低速から中速にかけてパワーが不足している状態でした.


【点検結果】

 この車両は量販店から購入されたお客様から各所分解整備のご依頼いただいたものですが,

4番シリンダが始動直後に燃焼不良を起こしている可能性が高く,エンジンの圧縮もあることから,

キャブレータオーバーホール【overhaul】(分解整備・精密検査)を行ったものです.

その中でも様々な不具合を発見しましたが,ここではニードルジェットホルダについて記載します.



図1.1 腐敗したガソリンの堆積したニードルジェットホルダ

 図は1.1取り外したニードルジェットホルダの様子です.

このキャブレータはニードルジェットとホルダが一体になっている構造であり,部品としては1つです.

まずメーンジェット取り付け部に腐敗したガソリンが固形化し,堆積しているのが分かります.

ニードルジェットホルダが固着していて取り外しが困難であったのはこれが原因であるといえます.

腐敗したガソリンの堆積具合から判断すると,何年もエンジンが動かされていなかった期間が存在していたと推測され,

お客様が購入された時に,そこで長期間在庫であった,という販売元の話と一致することが確認できます.

しかしその後,量販店でオーバーホールされたということですが,

部品の状態から判断すれば少なくともこの部分に関しては全く何もしていないといえます.

またニードルジェットホルダの材質が変色していることから,

おそらくこの部品は車両販売当時の1987年頃からずっと使用され続けていたものであると考えられます.



図1.2 メーンジェット取り付け部に発生している亀裂

 図1.2はメーンジェット取り付け部の様子です.

黒い四角Aで囲んだ部分及びBで囲んだ部分に亀裂が発生していることが分かります.

Aの亀裂はメーンジェットシート部から縦に伸びており,横に伸びているBとぶつかって止まっていることが分かります.



図1.3 内側のねじ溝部に発生している亀裂

 図1.3はニードルジェットホルダ内側の様子です.

メーンジェットを取り付け部ねじ溝に発生している黒い四角Aの亀裂は,

図1.2のAの亀裂であり,内側と外側で貫通していることが分かります.

これはメーンジェットの締め付け,緩めの繰り返しによる疲労や,

過大なトルクでの締め付け,材質の劣化により発生したものであると考えられます.

つまり亀裂はメーンジェット取り付けねじ溝部すなわちニードルジェットホルダの内側上部から発生したと考えられます.

ニードルジェットホルダはキャブレータボデーに収まっている為,

亀裂の成長によるメーンジェットの脱落等は発生しないと推測できますが,

生じたすき間からメーンエアジェットから吸い込まれた空気が通り抜ける様になれば,

厳密には空燃比が崩れる可能性が否定できず,早急に対処が必要な状態であると判断しなければなりません.


【整備内容】

 精密に検査した結果ニードルジェットホルダに亀裂が発生していた点や,

材質そのものが劣化していると判断できるので,今回の整備では部品を新品に交換しました.



図2.1 新品のニードルジェットホルダ:0‐1 (443)

 図2.1は新品のニードルジェットホルダの様子です.

取り外した古い部品と比較して,新品は光沢があり,材質に粘りがあることが分かります.

2番3番シリンダに対応する番手:0‐1 (570) のホルダ はメーンエアジェットからの流入空気に対する穴が,

1番4番シリンダに対応する番手:0‐1 (443) の2方向合計6個に対して,4方向合計12個になっています.



図2.2 キャブレータボデーに取り付けているニードルジェットホルダ

 図2.2は新品のニードルジェットホルダを点検洗浄したキャブレータボデーに取り付けている様子です.

ニードルジェットホルダにはジェットニードルとの最適なすき間を維持するだけでなく,

エアブリードの役割等空燃比にかかわる重要な機能があります.



図2.3 オーバーホールの完了したキャブレータ

 図2.3はオーバーホールの完了したキャブレータフロートチャンバ内部の様子です.

ニードルジェットホルダは赤い四角A及びBの部分に取り付けられており,

メーンジェットやシートを保持する役割を果たしています.

キャブレータの組み立て,組み付け調整等を行い,

試運転の結果,懸念材料であった4番シリンダの燃焼不良が解消したことや,

その他に異常や問題がないことを確認して整備を完了しました.


考察】

 オーバーホール【overhaul】とは,機械を構成部品単体あるいはそれ以上に分解し,精密に検査することを意味します.

この車両は他店でキャブレータのオーバーホールをしたと称されるものですが,

実際に見れば,
低速経路や始動経路が完全に詰まっていたり ※1

フロートチャンバ締め付けねじ部が破損していたり
※2 スロットルバルブシャフトのシールが破損していたり ※3

フロートバルブシート固定ねじが大きくナメていたり
※4

ピストンバルブが欠けていたり
※5 と様々な不具合を内在していました.

この事例でいえばニードルジェットホルダに年月を経て形成されるガソリンの堆積物があったことから,

点検や清掃された形跡が全く見られませんでした.

オーバーホールしたというのであれば,少なくとも機関に対して細部までの洗浄や清掃が求められますが,

それがなされていないことは論外であるとしかいえません.

部品を洗浄して初めて細部の状態が分かるのであり,精密に検査するには,

取り外した時点での状況の把握を行い,次の段階で徹底した清掃洗浄が求められます.

今回の事例では,ニードルジェットホルダを清掃した段階で,亀裂が発生していることが分かりました.

部品そのものは運動しないことから,

亀裂の発生原因はメーンジェットの締め付け及び取り外しの繰り返しによるねじ溝部への疲労,

及び締め過ぎによるオーバートルク,そして材料そのものの経年劣化によるものであると考えれらます.

特に真鍮は劣化してくると粘りがなくなり,亀裂が発生しやすくなる特性を熟知していれば,

少なくとも変色していると目で見て確認できる程劣化した部品は,

最低限亀裂の検査をしなければならないことはいうまでもありません.

ニードルジェットホルダが空燃比に影響する大きなものとして,

ジェットニードルとの接触面,メーンエアジェットからの流入空気の取り入れポート,そしてメーンジェットからの燃料通路の,

3つが挙げられます.

その各々が重要であり,亀裂や損傷によりすき間ができてしまうと,そこから燃料や空気の出入りが生じる為,

空燃比が意図していたものからずれてしまい,エンジンの不調につながるおそれがあります.

やはり年式の古い車両であれば,絶版になる前に,できれば新品に交換しておきたいもののひとつであるといえます.






※1 “始動系統及びパイロット系統の詰まりによる始動直後及び低速の燃焼不良について”

※2 “フロートチャンバ取り付けねじ溝のねじ切り破損について”

※3 “2バレル2キャブレータ式スロットルバルブ廻りのオーバーホールについて(気化器の型式:BSW27)”

※4 “フロートバルブシート固定ねじ緩め方向のナメと錆について”

※5 “劣化したニードルホルダとピストンバルブの欠けについて”







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