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ダイヤフラムの潰れによる加速ポンプカバーからのガソリン漏れについて


【整備車両】

CB250RS (MC02)  推定年式:1980年  参考走行距離:16,800km


【不具合の症状】

燃料コックをONにすると、キャブレータ下部から燃料が流出してきました。


【点検結果】

アクセラレータカバーのキャブレータボデーとの合わせ面は、フロートチャンバの底部に位置します。

燃料コックをOFFにしておいた場合、

フロートチャンバに溜まっていたガソリンがすべてアクセラレータカバーの合わせ目から漏れ出し、

中が空になっている状態では、燃料漏れは外部から確認できません。

そしてコックをONにするとフロートバルブからフロートチャンバにガソリンが入りこみ、

フロートバルブが閉まりきる前すなわちフロートが上昇する前に、

アクセラレータカバーのすき間から燃料が漏れ続けていると考えられます。

ここではすでにフロートバルブ廻りの部品を新品にしているので、それに関連する不具合はないものと仮定しています。



図1は燃料コックをONにした状態でのアクセラレータポンプカバー廻りの様子です。


図1 、キャブレータとの合わせ面から燃料漏れを起こしているアクセラレータポンプカバー

カバーの付け根から継続的にガソリンが流出しているのが確認できます。

燃料コックをOFFにするとしばらくはガソリンが流出し続けるものの、やがて漏れが止ます。

これは、コックをOFFにしても、ONの状態の時にフロートチャンバにたまっていたガソリンが、

アクセラレータポンプカバーから流れ続けているためだと推測できます。



図2はアクセラレータポンプカバーを取り外したキャブレータボデー側の様子です。


図2、張りの失われたアクセラレータポンプのダイヤフラム

キャブレータボデーとアクセラレータポンプカバーの合わせ面をシールしているダイヤフラムが、

潰れて張りがなくなっていることが分かります。

このことから、ガソリン漏れはパッキンすなわちダイヤフラムの密封力の低下が原因だと判断できます。


【整備内容】

図3は新品のアクセラレータポンプのダイヤフラムと取り外した古いダイヤフラムを比較した様子です。






図3、新品のダイヤフラム(左)と取り外したダイヤフラム

新品のダイヤフラムは取り外した古いものに比べ、張りがあり、ゴムが反り返っていないことが分かります。

この厚みと張りにより、カバーとキャブレータの合わせ目からガソリンが漏れないようにシールされます。

部品単体での比較でも、古いものは潰れしろも張りもなく、シール機能が損なわれていることが分かります。



図4はアクセラレータポンプのダイヤフラムをキャブレータに取り付けた状態での、

新品のダイヤフラムと取り外した古いものを比較したものです。

画像はダイヤフラムの潰れしろを分かりやすく比較するために合わせ面を水平方向から撮影したものです。




図4、キャブレータに組み付けられた古いダイヤフラム(上)と新品のダイヤフラム

古いダイヤフラムは張りがなく中心のロッドがキャブレータ側に沈み込んでいるのが分かります。

また合わせ面に対して、古いダイヤフラムはほとんど潰れしろがなく、弾性を失い、面一あるいは少し沈んでいます。

逆に新品のダイヤフラムは張りがあり、ロッドを保持していると同時に、潰れしろにも張りがあることが確認できます。




図5、キャブレータに組み付けられた新品のダイヤフラム

図5はキャブレータに組み付けた新品のダイヤフラムのポンプカバーとの合わせ面の様子です。

ダイヤフラムの外周から少し内側に、外周にそうようにゴムの出っ張りが形成されています。

これは合わせ面とのシール性能を向上するための潰れしろの一種です。

古いものはこの出っ張りも潰れていて、ほとんどシールする機能が失われていました。




図5、燃料漏れの解消したアクセラレータポンプ廻り

図5は新品のダイヤフラムを点検整備したキャブレータに組み付けた様子です。

燃料漏れはなくなり、走行中の加速性能も問題ない状態であることを確認し納車しました。


【考察】

ガソリンをシールしている、いわば燃料漏れが発生しないようにしている部品は様々なものがあります。

キャブレータ内部ではOリングやパッキン、ガスケット等単体で部品を構成しているものが少なくありません。

しかし何か特別な役割を担いながら、同時にシールしている部品も中には存在します。

この事例では、ひとつの部品が加速ポンプのダイヤフラムという役割と同時に、そのダイヤフラムの耳が、

キャブレータボデーとアクセラレータポンプカバーをシールし、燃料漏れが発生しないような構造になっています。

その場合、シール機能が失われれば、付随する能力のいかんにかかわらず部品を交換する必要が出てきます。

それは燃料漏れは車両火災につながる危険性があり、最も迅速に修理しなければならない項目であるからです。

実際にはこのダイヤフラムのようにシール機能の低下と同時にダイヤフラムの張りが失われているといった、

重複した性能低下の状態に陥っていることが少なくありません。

やはり複数の機能をもっている部品は、一つでもその役割を担うことが困難になった場合は、

すぐに整備されることが、のちに大きなトラブルを起こさない様にするために必要であるといえます。





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