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ダンパブッシュの損傷によるチャンバのガタつきと排気漏れとの関連について


【整備車両】

R1-Z (3XC) 3XC3 1993年式  参考走行距離:16,500km


【不具合の状態】

右側チャンバ取り付け部を支点にガタが生じていました。


【点検結果】

2サイクルエンジンのチャンバはエンジンからくる振動等に考慮して、

マウント部にブッシュが使用されていることが少なくありません。

特にこの車両の様に並列2気筒、いわゆるパラツイン(パラレルツイン)エンジンは振動が大きく、

チャンバはそれに耐えられる取り付け方式が各社工夫されており、

エンジンのシリンダに損所を与えぬよう接合部は様々な形態があります。

そしてシリンダに次いで重要な中間の車体との取り付け部も、

ダンパとしてゴム製のブッシュが使用されているものがあります。

今回はチャンバが車体取り付け部を支点としてガタを生じていたことから、その部分のブッシュの点検から開始しました。



図1はエキゾーストチャンバを取り外し、破損しているダンパラバーブッシュを点検している様子です。

上側の図のAで囲まれた部分は車両進行方向側にあたりますが、

ゴムがところどころ千切れていて、振動の吸収力や復元性能が落ちていることが推測できます。



図1 、損傷しているダンパブッシュ

部分的に補修しても強度に信頼性が得られないと判断し、ブッシュそのものを交換することにしました。



図2はラバーブッシュを抜き取り、圧入する為に作成された冶具の様子です。



図2、ブッシュ抜き取り、圧入の冶具

チャンバのブッシュハウジング及びマウントブッシュは冶具の受けが1mm程度しかないので、

それに合わせた冶具を作成、使用しました。

上側がブッシュ押し出し冶具、下側がハウジングの受けです。




図3、ハウジングからのブッシュ抜き取り

図3はチャンバハウジングからブッシュを油圧プレスで抜き取っている様子です。



図4、抜き取られたダンパラバーブッシュ

図4は抜き取ったブッシュとハウジングの様子です。


ブッシュは損傷が激しいものの、ハウジングにはかじりや歪み、変形等なく良好な状態でした。


【整備内容】

図5は点検清掃したブッシュハウジングに新品のラバーブッシュを油圧プレスで圧入している様子です。

図5、新品のダンパラバーブッシュの圧入

冶具は抜き取り時と同じものを使用しています。

圧入側はマウントボルトの入るカラーを避ける為の逃げがラジアル方向に0,02mm程度のクリアランスで加工されている為、

ほぼ芯が出るものの、受け側は完全にフラットなので様子を見ながら確実にセンターに設置する必要があります。



図6はチャンバに圧入された新品のブッシュの様子です。


図6、圧入された新品のダンパラバーブッシュ

プレス部分やハウジングの肉厚が1mm程度しかない為、

圧入時にブッシュやハウジングを損傷させないように慎重に組み付けました。

ダンパゴムの可塑性、復元力にも腰があり、振動の吸収や緩和が期待できます。



図7、車体に取り付けられたチャンバマウントブッシュ部

図7は車体に取り付けられたチャンバの様子です。

ワッシャには緩衝材が取り付けられており、エンジンの振動やチャンバの振動を和らげる構造になっています。

整備を完了し、試運転を行いガタつきや排気漏れがないのを確認して納車しました。


【考察】

この車両はお客様からのご依頼で、排気漏れ修理に付随してブッシュも合わせて交換しました。

右側に転倒した形跡があり、サイレンサが曲がっていました。

また、右側チャンバの車体取り付け部のステーが曲がっていました。

曲がりはチャンバを取り外した時に修正しましたが、

その曲がりがどの程度チャンバ取り付け部のブッシュに影響するか測定することは困難です。

しかし少なからずある方向に力が加わり続けていた為に、ラバーが破損したものであると推測できます。

右側のマウントブッシュは損傷していたものの、左側はほとんど破損が見られませんでした。

このことから、右側に振動や疲労、外力が集中していたと考えられます。



シリンダの付け根は排気漏れが起きていましたが、その原因の一つとして、ダンパブッシュが損傷することにより、

増幅されたエンジンの振動がシリンダ付け根に影響していた可能性は否定できません。

転倒によりチャンバが歪み、それに付随してダンパ部、シリンダ付け根が同時に影響を受けていた恐れもありますが、

これらの部分は相互に力が伝達されるので、包括的に考える必要があります。



ブッシュは取り付け部の金属の亀裂等の損傷等を防ぐ役割があります。

特にシリンダ付け根は、エンジンの振動とチャンバの共振等の疲労が集中しやすく、

リジッドマウントされた場合は、シリンダの損傷につながります。

ブッシュは緩衝材としての役割がありますが、やはりゴムが劣化したり変形、亀裂が入ればその性能は十分に発揮されず、

振動を吸収し切れなくなるばかりでなく、損傷して遊びが増えた分、チャンバの振動を増幅させる恐れもあります。

やはりダンパとしてブッシュマウントされている箇所は、設計者の意図を汲み取り、

損傷している場合はすみやかに整備されることが求められます。





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