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事例:D-55

無理に補修されたスイッチの故障によるフロントブレーキストップランプの点灯不良について

【整備車両】 
 CB1300DCW (SC38) X4  年式:1998年  参考走行距離:約34,400 km
【不具合の状態】 
 フロントブレーキランプが点灯しない状態でした.
【点検結果】 
 この車両は継続検査(車検)および法定定期点検を承ったものです.クラッチマスターシリンダ内部の状況が悪化していた ※1
り,ブレーキレバーの先端が折れていたり ※2 ,整備が必要な個所が多数ありましたが,今回の事例では点灯しなくなったフロントブレーキランプについて記載します.

 ブレーキランプの不点灯はスイッチそのものと,スイッチまでの配線,そしてランプ本体の大きく3つに分けて考えることができます.今回の事例では,リヤブレーキは問題なく点灯していることから,ランプ本体の不具合を除去し,スイッチの点検から整備を開始しました.
 まずお客様の言われていたフロントブレーキでランプが点灯しないという状態の再現性の有無を確認しました.すると,なるほど素早くブレーキレバーを握るとランプは点灯しません.しかし,ゆっくり握ると,途中で一旦点灯し,更に握るとまた消えてしまうという症状があることが分かりました.この時点で少なくともランプ本体は,点灯している為正常であると判断することができます.つまり,電源電圧がランプまでたどり着いて,ランプで消費,アースされていることになります.

図1.1 パテの様なもので補修されているブレーキスイッチ
 図1.1はパテの様なもので補修されているフロントブレーキスイッチの様子です.見た瞬間違和感を覚えますが,まずパテで補修しなければならなかった原因と,それがブレーキランプの不点灯と関係あるのかを判断する必要がありました.

図1.2 割れたスイッチ
 図1.2は取り外したブレーキスイッチに軽く力をかけたところ,容易にパリッと割れてしまった様子です.このことから,何らかの原因でスイッチ固定部に負荷がかかり,破損したものをパテで補修していたと考えられます.そして十分に固定できない為に遊びが生じ,それがスイッチに影響して不具合を発生させていたと考えることができます.スイッチの動作を確認すると,動きが渋く,ある点まで動作させると内部で引っ掛かりが発生している為,スイッチ本体が故障していると判断できます.
 また車体側のブレーキ端子の取り付け部が大きく開いてしまっていることも気になります.

図1.3 ブレーキスイッチ車体側の電圧確認
 図1.3はイグニションONの状態で電圧が来ているか確認している様子です.多少の電圧降下を考慮しても,ほぼ電源電圧が確保されていると判断することができます.したがって,今回のブレーキランプの不点灯の原因はスイッチの故障のみであると判断することができます.
 確かにリヤブレーキが点灯したことで,ある程度の電圧が確保されていることは予想できますが,それがどの程度なのかは,テスターで確実に数値として押さえておく必要があります.


【整備内容】
 破損していたブレーキスイッチを新品に交換しました.

図2.1 新品のブレーキスイッチASSY
 図2.1は新品のブレーキスイッチの様子です.当然のことですが,新品の端子取り付け部は曲がっておらず,スイッチから垂直かつ端子同士は平行になっています.

図2.2 取り付けられた新品のブレーキスイッチ
 図2.2は新品のブレーキスイッチを新品のスクリュでマスターシリンダに取り付けた様子です.黄色の楕円で囲んだ部位がスイッチとスクリュですが,やはり正確かつ確実にスイッチを固定する為にも,新品のスクリュで気持ち良く行きたいものです。

図2.3 フロントブレーキ操作により点灯したストップランプ
 図2.3は新品に交換したフロントブレーキスイッチの動作を確認している様子です.ブレーキレバーを握り,適切なタイミングで正常にランプが点灯していることを確認して整備を完了しました.


【考察】 
 例えばブレーキランプの不具合で一番懸念されるのが追突事故の発生です.特に今回の事例の様にフロントブレーキランプが点灯しないのは,リヤが点灯しないのとはわけが違います.それはバイクの場合,フロントブレーキが主ブレーキであり,車両の減速度合もリヤに比べてフロントブレーキの作用は非常に大きいからです.したがって,不具合に気付いた場合は早急に対処する必要があります.今回は車検前の法定定期点検の中で整備を実施しましたが,車検のないバイクの場合,ブレーキランプの不具合に気付かないで走行しているライダーが少なくないことは憂慮すべき実態であり,例え車検がなくとも,定期的に点検整備することが求められます.
 今回の事例では,割れを補修する目的でブレーキスイッチが樹脂で固められていました.しかし力のかかる部分は樹脂での補修では不十分です.スイッチ本体はわずかな投資で新品にできることから,もし何らかの不具合が発生した場合は,迅速に交換することが,追突事故を防止する為に最も必要なことです.
 この車両はお客様が他店で購入されたものですが,中古車というものは,仮にワンオーナーだとしても,この事例の様にその場しのぎの補修がされていたり,ぐちゃぐちゃにいじられていたりすることがあります.したがって,一度は正しい知識と技術を備えた整備技術者に点検整備を依頼しておくことがその後の安心につながると言えます.


※1 クラッチマスターシリンダリザーバタンクに堆積したヘドロとフルード交換について
※2 ブレーキレバー端部の折れと継続検査(車検)について





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