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事例:S‐52

取り付け順番が逆にされたワッシャ及びスプリングワッシャから読み取るべき別の不具合について


【整備車両】

RG250EW‐2 (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) Ⅱ型  推定年式:1984年  参考走行距離:約22,300km


【不具合の状態】

フロントアクスル固定ボルトのワッシャとスプリングワッシャの取り付け順番が逆でした.


【点検結果】

 この車両は個人売買で入手されたお客様から,

フロントフォークがグニャグニャしているということで,その改善のご依頼を承り,メガスピードにて整備を行ったものです.

フォークに関してはANDF廻りの整備
※1 組み立ての誤ったフロントフォークの整備 ※2 を行いましたが,

その際にフロントアクスルシャフトを締め付けるボルトの取り付けに不具合が発生していることが分かりました.



図1.1 取り付け順が逆になっているワッシャとスプリングワッシャ

 図1.1はフォークを取り外す為にフロントアクスルを抜き取る際に確認した,

アクスルを締め付けるボルト廻りの様子です.

分かりやすい様にナットを緩めて各部品にすき間を作り撮影しました.

本来アウターチューブに接触する面にはワッシャが取り付けられなければなりませんが,

図の様にこの車両ではスプリングワッシャが取り付けられていました.

これでは座面に対してワッシャの外径がスプリングワッシャより広い部分は無駄になるばかりでなく,

スプリングワッシャが直接アウターチューブに接触して締め付け時に回転する為,

アウターチューブとの接触面に傷が発生する原因になります.



図1,2 取り付け順の誤っていたアクスル固定ボルト等

 図1.2は取り付けの誤っているアクスル固定ボルト,ワッシャ,スプリングワッシャ,ナットの様子です.

全体的に錆びていた他,青い四角Aで囲んだワッシャは過大な締め付けトルクにより内径が歪んでいました.


【整備内容】

 取り外したボルトを含めすべての部品に錆が発生しており,各々も歪みが発生していたので,

新品に交換することで対応しました.



図2.1 新品のアクスル固定ボルト類

 図2.1は新品のアクスル固定ボルト,ワッシャ,スプリングワッシャ,ナットの様子です.

この部位の設計はボルト側にもワッシャが使用されていることから,

アウターチューブとの接触面を保護するとともに,トルクが広い面積で均一にかかるようになっています.



図2.2 ワッシャ及びスプリングワッシャの正しい組み付け順序

 図2.2はワッシャとスプリングワッシャの正しい取り付け順を示した様子です.

左からアウターチューブに対して,まずワッシャが取り付けられ,そこに緩み止めのスプリングワッシャ,

ボルトを締め付けるナットの順で構成されています.



図2.3 正しく組み付けられたアクスル固定ボルト廻り

 図2.3は図2.2の状態から規定トルクで締め付けられたアクスル固定ボルト廻りの様子です.

正しい順序で取り付けられたことにより,締め付けの不具合が解消されたと同時に,

新品部品による金属の美しい輝きも楽しめるようになりました.


【考察】

 スプリングワッシャとワッシャの違いは説明するまでもなく,前者は緩み止めであり,

後者は締め込み時における対象物の保護と座面の面積の確保等が,それぞれの主要な役割になります.

大雑把な人間から見ればその違いはどうでも良いと捉えられるかもしれませんが,

それは機械に携わるものには一切通用せず,

この違いの重要性を熟知していなければ,そして当たり前と思われるこの違いの細かさのレベルで,

すべての項目の作業ができなければ,一生涯優れた整備技術者になることはできません.

スプリングワッシャとワッシャの組み付けミスを題材にすること自体,一見低レベルであるととらえられがちですが,

実はそこに重要な意味が含まれており,それが理解できない様ではその先の水準には到底到達することは不可能です.


 ここで重要なのは,今回の事例においてこの素人整備による組み付けミスが直ちにアクスルの緩みにつながる,

といった次元ではなく,別のベクトルすなわち,この部分でこの様な組み付けミスが発生していることから,

その先の状態を読み取る能力の有無があるかどうかということです.

つまりこの事例でいえば,アクスル固定ボルトのスプリングワッシャとワッシャの組み付け順が逆であることから,

過去にそれを行う必要があった部位が取り外されている可能性があり,

ひいてはその部分,いわば今回ではそれがフォークにあたり,

そこも分解されている恐れがあるということを推測できるかどうかが重要になります.

なぜならスプリングワッシャとワッシャの組み付け順をミスするという未熟な素人がその先を分解してしまえば,

当然その先も同じようになっている可能性が否定できないからです.

そして残念ながら当該車両では懸念すべきことが,フォーク内部の組み立て順の誤りとして実際に発生しており
※2

それがサスペンションの機能を著しく損なっていました.


 これらのことを総じてまとめれば,汲み取るべき事情は,

ワッシャとスプリングワッシャの組み立て順を間違えるという論外の部分ではなく,

組み付け順を間違えたのか,それともその違いすら分からない程度の素人レベルの人間が作業してしまった結果,

その先に隠れているフォークやホイール,タイヤ,ステム,

そのすべての部分に,その作業者が誤って組み立てている可能性が否定できないという,

不安の種が内在していることを無視できないことです.


 やはりスプリングとスプリングワッシャの機能の違いやその重要性はもちろんのこと,

何か不具合を発見した場合はそれにつながるすべての箇所を包括的にとらえる必要があり,

その見立てができるかどうかが,優れた整備技術者になれるかどうかの分かれ目になるという意見に,

私は確かに賛同します.





※1 “誤って組み立てられたシリンダ廻りとANDFの動作不良によるフォークの底着きについて”


※2 “逆接続されたオイルロックピースと摺動部に挟まれたリーフスプリングによるダンパ不良について”






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