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ブレーキシューの摩耗によるブレーキレバーの握り切りについて


【整備車両】

SE50MSJ (AF19) DJ.1RR  推定年式:1988年  参考走行距離:約8,800km


【不具合の状態】

リヤブレーキレバーを完全に握り切っても何も手ごたえがなく、ブレーキが効かない状態でした。


【点検結果】

リヤブレーキレバーを握り切っても全くブレーキが効かず、ワイヤを調整するナットも完全に引っ張り側端に達していました。

レバーを握るとワイヤが動き、外側から見える範囲でブレーキカムも動いているので、

そこまでの機関は機械的に大きな損傷はなく最低限動作していることが確認できます。

このことから何らかの原因でブレーキシューとドラムが接触していないと判断し、

リヤ廻りを取り外し、ブレーキの状態を点検しました。




図1、摩耗しているブレーキシュー

図1はリヤホイールを取り外したリヤブレーキ廻りの様子です。

ブレーキシューが摩耗してほとんど残りがなくなっていました。

ブレーキカムの動きやスプリングの戻り等は正常でした。



図2、トレーリング側のスリッドに堆積しているシューの削れた粉末

図2は取り外した摩耗したシューのトレーリング側の様子です。

リヤホイールのドラム内側は摩耗の許容規定値を下回っていたので、

シューの残りがほとんどないことがドラムとシューの接触不良の原因であると判断できます。

またほぼ全周に渡りスリッドにシューの削れカスが堆積していることから、

リヤブレーキ廻りはシューを交換してからほとんどあるいは全く手入れがされていなかったと考えられます。


【整備内容】

図4は新品の純正リヤブレーキシューを組み付けた様子です。

シューにスリッドがなく、スプリングの形状も取り外した部品とは違うことが確認できます。

図4、新品のシューに交換されたリヤドラムブレーキ

メーカーの純正部品にはスリッドがありませんが、非常に強力にリヤブレーキが効きます。

よって公道を通常走行する場合はスリッドの有無はほとんど性能に影響がないといえます。




図5、調整されたリヤドラムブレーキワイヤ

図5はリヤブレーキワイヤを調整した様子です。

摩耗したものと新品のシューの厚みの差はわずか数ミリですが、

その差がブレーキの性能を左右し、またブレーキワイヤの調整許容寸法に影響しているといえます。


【考察】

オートバイの一般的なブレーキ制動力の配分として、教習機関ではフロント7割、リヤ3割と指導されていたり、

走法の専門書でも乾燥状態ではフロント8割、リヤ2割といったように、

リヤブレーキの受け持つ割合は少なく、いわば補助的な扱いになっています。

実際の走行において、リヤブレーキを全く使用しないライダーも少なくありません。

このようなことからリヤブレーキは軽視されがちですが、

リヤブレーキは低速での微妙な車体コントロールには必要不可欠であり、

また急制動や緊急時にはフロントブレーキと合わせて強力に車両を停止させることができます。

したがって、保安基準云々以前の問題としてリヤブレーキは常に十分に制動力が確保されていなければなりません。

特にこの事例の様にスクーターはクラッチがない分アグレッシブな走行を行う場合、

微低速での車両コントロールはリヤブレーキでエンジン出力を制御し速度を調整する必要がある為、

機関の確実な作動が求められます。



今回の事例では、リヤブレーキシューが完全に摩耗していて、ブレーキワイヤを引き切ってもドラムにシューが接触せず、

まったく制動力が生じない状態になっていました。

フロントブレーキは遊びも調整されていて、制動力も十分だったので、

少なくとも直前の車両のオーナーはリヤブレーキを全く使用していなかったと推測できます。

車両の運転の仕方は個人の主義や癖、流儀があるので、リヤブレーキを使用する、しないは個人の自由であるといえます。

しかし車両は常に最低限保安基準を満たした状態を維持していなければなりません。

この事例でいえば、リヤブレーキを使用する、しないにかかわらず、

本来リヤブレーキ機関はしっかり機能する状態でなければなりません。

やはりブレーキという重要な機関はその機能を常に最善の状態に保つ整備が求められます。





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