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事例:S-104

なめたカウル留めスクリュによるカウル脱着時の負荷とスクリュの頭の形状について

【整備車両】 
 RG400Γ (HK31A) RG400EW  年式:1985年  参考走行距離:約15,200 km
【不具合の状態】 
 カウルを留めるスクリュの頭が完全になめていて,取り外ししにくい状態でした.
【点検結果】 
  この車両はカスタムショップという他店で燃料漏れが直らない
※1 ということで,メガスピードにて整備を承ったものです.今回の事例では頭のなめたカウルを留めるスクリュについて記載します.

図1.1 なめているカウルを留めるスクリュ
 図1.1の赤色の楕円で囲んだ部位は完全に頭のなめたスクリュです.RG400Γの場合,アッパーカウルとサイドカウルを留めるスクリュは片側3か所ありますが,そのうち真ん中のスクリュが大きくなめていました.この状態ではスクリュを回そうとしても,弱い力であれば更にスクリュの頭をなめてしまい,逆に強い力でスクリュを押し付ければ,カウルに負荷がかかり破損の原因になります.したがって,今後のことを考えればこのスクリュは交換しておく必要があります.
 また本来この部位のスクリュの形状は,プラス(+)ではなく,六角であることも,指摘しておかなければなりません.というのも,性能的に大きく違うということを予備知識としてもっていれば,プラスのスクリュを使用することはないからです.

図1.2 頭のなめたスクリュ
 図1.2は図1.1の赤色の楕円で囲んだスクリュを拡大した様子です.締め付け方向にも,緩め方向にも,どちらにもなめた形跡があり,もはや普通に使用できる状態ではありませんでした.
 これはなめたスクリュを何度も使用したことにより,その都度頭がなめて削れていった結果であると判断することができます.また,スクリュの下に樹脂のワッシャがない為,締め付け部の摩擦がそのままカウルに影響する状態でした.これではカウルを脱着するたびに,その座面は回転方向に擦り傷ができます.発売から数十年経過した車両であれば,カウルもすでに絶版ですから,このような部位にこそ気を遣わなければなりません.


【整備内容】
 カウルを留めるスクリュを6か所すべて新品に交換し,紛失していた樹脂ワッシャを新品にしました.

図2.1 新品の樹脂ワッシャとカウルを留めるスクリュ
 図2.1は新品の樹脂ワッシャとカウルを留めるスクリュの様子です.これによりカウルに与えるダメージを最低限に減らし,かつ正確にカウルを留めることが可能です.



図2.2 アッパーカウルに取り付けられた新品のスクリュと樹脂ワッシャ
 図2.2は新品の樹脂ワッシャを使用して新品のスクリュでアッパーカウルを留めた様子です.上の画像はスクリュの頭を拡大して撮影した様子です.本来のスクリュの頭は図の様に六角です.なぜプラス(+)ではなく六角なのか.それは実際にスクリュを回してみれば容易に分かることですが,プラス(+)の頭は,教科書的に言うのであれば,押しが7割,回しが3割の力の配分で作業しなければ,なめます.ですがどうでしょう.考えただけでも,そんなにグイグイ押したら,ガラス細工のようなカウルにダメージを与えてしまうのは容易に想像できます.ましてや数十年前の当時のカウルです.やはり締め付け時は慎重に行わなければなりません.
 その点六角の場合は,画像でも分かる通り,六角の穴が垂直に伸びている為,側面で大きな力を受け止めることができる構造になっています.つまり力の配分比率が回し側に大きく取れる為,カウルを無理に押し付けなくても締め付けることが可能です.
 絶版車を扱うのであれば,そこまで気を遣う必要があります.

図2.3 車両全体の様子
 図2.3は車両全体を見た様子です.このくらい離れればアッパーカウルの留めに使用されているスクリュの頭がプラス(+)か六角かは分かりません.しかし離れて見たときに分からなければ良い部分と,分からなくてもダメな部分があることを常に認識しておく必要があるのはこの事例の通りです.カウルを留めるスクリュは後者にあたります.


【考察】 
 カウルを留めるスクリュにはほとんど頭が六角のスクリュが使われています.それは見た目だけではなく,そのスクリュの性質を考慮したものであることに疑いの余地はありません.
 今回の事例では六角のところがプラス(+)のスクリュに入れ替えられて,更にそれが大胆になめていました.無理なく取り外せたから良かったものの,これが放置車両の場合,スクリュのねじ部が錆びて固着し,全く回らないことも実際にあります.頭がなめた上にネジ溝部が固着しているものは,無理に取り外そうとすれば樹脂材料でできているカウルを破損させかねません.しかも発売から数十年経過している車両の場合,カウルに粘りがなく,脆くなっている為破損しやすい状態に陥っていることが少なくありません.そして破損したら,代替品は絶版で入手困難であることが常です.そうなれば事態はかなり緊張感をもって臨まなければならないでしょう.
 できればその様な事態に陥ることは避けたい.そして避けねばなりません.それは簡単なことです.面倒くさがって,六角の指定になっている部位のカウルを留めるスクリュにプラス(+)の頭を使わないことです.特に古い中古車ではカウルのスクリュそのものが紛失していたり,とにかくまともに発売当時のままの姿を完全に保っていることは稀有です.したがって,何らかの形で対処しなければならないことが多いのですが,その時に楽をして手元にあるプラス(+)の頭のスクリュを代替使用したりしないことです.ましてやこの事例の様になめたスクリュを何度も使用するなど論外です.破損していると確認できるのであれば,面倒でも本来の形状のねじを使うこと.それが最善の道であり,優れた整備技術者への一歩だと私は考えています.


※1 フィルターの破れによりフロートバルブに挟まった錆によるキャブレータからの燃料漏れについて





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