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事例:S-78

不適切なドライバで回したことにより破損したファスナの頭について


【整備車両】

 RG400EW (HK31A) RG400Γ(ガンマ) 1型  年式:1985年  走行距離:約11,000km


【不具合の状態】

 ファスナの頭がなめていて,回転時により一層なめやすくなっていました.


【点検結果】

 この車両は細部までメガスピードにて各部を点検整備したものです。

今回の事例ではなめているファスナ及び潰れたシートラバーについて記載します.



図1.1 頭のなめているファスナ

 図1.1は頭のなめているファスナの様子です.

ファスナの下にホコリがたまっていて,頭のエグレた形状から緩め方向でより大きくなめてたことが分かります.

RG500/400Γ(HM31A/HK31) において,サイドカウルのファスナはそのほとんどが図のように頭がなめています.

これはファスナを無理にプラスドライバで回そうとしてなめた形跡に他ならず,

歪んでいる部分がファスナの円周よりかなり中心にあることから,

直径よりかなり短いマイナスドライバで回したために金属が歪んでしまったと考えられます.


このような事態を避けるためには本来ファスナの直径と同等以上の,

幅に余裕のあるマイナスドライバ等で回転させなければなりません.

その手間を怠るまたはその知恵がない作業者により中古車は大概このような惨状に見舞われています.

いくら外観が良くても,ファスナの頭がこれでは非常に気になるものです.

またなめた頭と同様に多いのが転倒によりサイドカウルと一緒に擦れて破損している ※1 場合です.

どちらにしても,外観美や性能回復の点から適正に整備される必要があります.




図1,2 取り外したファスナと錆の発生しているワッシャ及びEリング

 図1.2はサイドカウルから取り外したファスナの様子です.

特にねじのシートに当たるワッシャの金属部分が錆びていることが分かります.

この錆は外観を損ねるだけでなく,ファスナの回転抵抗になり,よりファスナをなめ易くするため,是正される必要があります.



図1.3 潰れたシートラバーと新品のシートラバーの比較

 図1.3はワッシャのカウルとの接触側にあるシートラバーを新品と取り外したそれを比較した様子です.

新品に比べて取り外したワッシャはラバーが潰れている分カウルとの遊びが増大していることが分かります.



図1,4 シートラバーの比較

 図1.4は新品のシートラバーと取り外したそれを真上から比較した様子です.

新品のシートラバーは接触部が浮き輪のように膨らんでいるのに対して,

取り外した古いものは完全に潰れて平坦になっていることが分かります.



【整備内容】

 新品の部品供給があることから,ファスナ本体とラバー,Eリング,それに抜け止めのピンをすべて新品に交換しました.



図2.1 点検清掃されたファスナ取り付け部

 図2.1はホコリの溜まっていたファスナ取り付け部を点検清掃した様子です.

この部位の破損している車両も少なくありませんが,このカウルは清掃した結果,状態が良好であることを確認しました.



図2.2 新品のファスナに圧入されているピン

 図2.2は新品のファスナにワッシャラバーを取り付け,抜け止めのピンをプレスで圧入している様子です.

やはりピンを変形させないようにするためにも,プレスで正確に圧入して組み立てる必要があります.



図2.3 組み立ての完了した新品のファスナ

 図2.3は組み立ての完了した新品のファスナの様子です.

シートラバーの厚みも正規の寸法に戻ったため,確実な取り付けが可能になりました.



図2.4 カウルに取り付けられた新品のファスナ

 図2.4は新品のファスナを取り付けがサイドカウルの様子です.

頭がなめていてホコリの堆積しているファスナと比べれば明らかですが,

清掃されたカウルに新品のファスナが取り付けられただけで非常に見た目が美しくなることが体感できます.



図2.5 新品のファスナの取り付けられた車両全体の外観

 図2.5は整備の完了した車両外観の様子です.

黄色の丸で囲んだ部分がファスナであり,すべての箇所で整備を実施しました.

離れて見ると良く分かりませんが,予め整備してあると分かっていれば,

実際に離れて見てもねじの頭が美しい形状になっていることに気づくことができます.

それはファスナの頭のカウルに占める面積が決して少なくないことを意味しており,

実はこの部分がなめているかどうかで全体的な印象が左右されてしまう重要な部品なのです.



【考察】

 例えファスナひとつといえども侮ることは許されません.

なぜならそれらの小さな部品のひとつひとつの集大成が車両全体の外観美を生み出すからです.

一見綺麗に見える車両でも,近づいて良く見るとねじの頭がなめていたり錆びていたりすれば,

一気に興ざめするといえるほど,逆説的に細かな部分が実は大きなカギを握っていると言っても過言ではないのです.


メガスピードで細部までご注文を受けて整備する場合は,この様な部位までこだわりたい,そう思います.

そして私はRG500/400Γを中古車として評価する上で,このファスナがどのように扱われていたかを見ることにより,

その車両を知る1つの手掛かりとして重要視しています.


もっともほとんどの中古車両はこのように手入れされていないのが現実であり,

それはそれで,美しく手直しすれば良いだけのことであることには違いありません.





※1 “転倒によるファスナの破損とサイドカウルのバタつきについて”






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