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事例:S-109

フロントブレーキマスターシリンダリザーバタンク上部と点検窓周囲の腐食について

【整備車両】 
 DT230 (4TP) 4TP2 ランツァ  推定年式:1998年  参考走行距離: ― km
【不具合の状態】 
 フロントブレーキマスターシリンダASSYが経年劣化していました.
【点検結果】 
 この車両はお客様が5年以上乗らずに保管されている間に不動に陥ったもので,メガスピードにてその再生を承ったものです.今回の事例では経年劣化しているフロントブレーキマスターシリンダASSYについて記載します.

図1.1 腐食や錆の見られるマスターシリンダリザーバタンク
 図1.1はフロントブレーキマスターシリンダのリザーバタンクの様子です.フロントブレーキそのものに引きずり等の不具合は発生していませんでしたが,外観は全体的に塗装がはがれて腐食していました.またキャップ取り付けスクリュも片側が大きく錆びていました.このままでは例え車両が動くようになったとしても,非常に見苦しい状態であると言えます.

図1.2 変色・減少しているブレーキフルード
 図1.2はブレーキフルードを点検窓から見た様子です.経年による変色だけでなく,液そのものも規定量入っていたと仮定すれば,かなりの量が減っていました.また点検窓の液面以下の部位に腐食が見られることから,わずかに染み出したブレーキ液が塗装を侵している可能性があります.もしそうであれば近い将来点検窓から大胆な液漏れが発生する危険性があります.


【整備内容】
 
新品の部品供給があったため,マスターシリンダASSYを新品に交換しました.

図2.1 入荷した姿のマスターシリンダASSY
 図2.1は入荷した姿のマスターシリンダASSYの様子です.ブレーキホース接続部にキャップがしてありますが,実際にはいつ製造されたものか分からない為,このまま使用するのは避けなければなりません.というのも,社外のマスターシリンダASSYも含めて,新品で入荷したままの状態で使用すると,高確率でブレーキ操作のフィーリングが悪くなります.その為,メガスピードでは更にひと手間加えて新品でも必ず分解してピストンの動きを滑らかにする対策を施しています.つまりマスターシリンダ交換といっても,常に分解整備の工程が含まれることになります.これは良好なフィーリングを得る為の前提条件と言えるくらい重要なことです.

図2.2 分解された新品のマスターシリンダASSY
 図2.2は新品のマスターシリンダASSYを分解した様子です.動きが滑らかになるように最大限の処置を行います.逆を言えば,新品で入荷したままでは動きが悪いものがあるということになります.内部構造を正しく理解し,手先の感覚が鋭敏であれば,入荷したマスターシリンダASSYを動かした瞬時に何が悪いかを判断することができます.

図2.3 滑らかな動きになった新品のマスターシリンダASSY
 図2.3は内部に処置を施し,動きの滑らかになった新品のマスターシリンダASSYの様子です.これにより,少なくともマスターシリンダが受け持つ範囲に限定すれば,確実に快適なブレーキフィーリングを得ることが可能になります.もちろん圧力発生部と伝達部,そして動力変換部の3セット一式を同時に整備してこそ真価を発揮するのがブレーキですから,可能な限りマスターシリンダ,ブレーキホース,キャリパを一緒にリフレッシュしておきたいものです.

図2.4 新品のブレーキフルードの入ったリザーバタンク内部
 図2.4はリザーバタンクに新品のブレーキフルードを規定量入れた様子です.この車両はリザーバタンク内部に鉄板が設置されていることにより,ブレーキレバーを握って解放された時のリターンポートからのブレーキフルードの跳ね返りを防ぐことができます.実際に作業すれば容易に分かることですが,この板の有無でブレーキ整備の作業時間に雲泥の差が出ます.

図2.5 車両に取り付けられた新品のマスターシリンダASSY
 図2.5は分解整備,取り付けの完了した新品のマスターシリンダASSYの様子です.図1.1と比較すれば明らかですが,見た目の美しさが甦り,非常にサッパリとしたものになりました.

図2.6 新品のマスターシリンダASSYの点検窓
 図2.6は新品のマスターシリンダASSYの点検窓の様子です.レンズが新品になったことにより,外観の美しさが戻ったのはもちろんのこと,内部のブレーキフルードの状態が正確に分かるようになりました.またブレーキフルードの液量が把握できるよう点検窓の上限に気泡がわずかに見える絶妙な液面にしてあることも大切なポイントです.


【考察】 
 フロントブレーキの性能としては,大きな不具合は発生していませんでした.しかし車両を5年以上動かしていなければ,やはり再び乗り始める際には分解整備しておきたいものです.エンジンが動くようになったとしても,動力を制動する機構に信頼性がなければ楽しく乗ることはできません.
 ブレーキマスターシリンダASSYが純正の場合,多くの車両でリザーバタンクの腐食が見られます.その部位はブレーキフルードが付着した可能性があることを示していますが,特にこの車両の様に点検窓周囲が腐食していれば,近い将来目に見えるレベルで液漏れが発生する可能性がある為,可能であればレンズも含めたマスターシリンダASSYで新品にしておくことが望ましいと言えます.
 今回の事例では新品の部品供給があったため,迷わずマスターシリンダASSYを新品に交換しました.その際に当社では必ず新品を分解整備してセットアップし直しています.それ抜きでは満足のいくフィーリングを得ることはできません.むしろ新品とは言え,いつ製造されたかも分からない製品をそのまま使うことに不安を覚えます.特に古い車両の場合,金属部品を注文すると当時物が入荷してくる場合があり,新品なのに錆びているケースがあります.やはり安全に直結するブレーキ機構だからこそ,可能な限り性能を発揮できるよう整備しておくことが好ましいと言えます.







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