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事例:S‐63

経年劣化したピストンカップの衰損によるリヤマスターシリンダからのブレーキ液漏れについて


【整備車両】

 RG250EW-4W (GJ21B) RG250Γ(ガンマ) 4型  推定年式:1986年  参考走行距離:約3,900km


【不具合の状態】

 リヤマスターシリンダ下部ブーツからブレーキ液が漏れ出していました.


【点検結果】

 この車両は長期保管中に不動になったものであり,お客様のご依頼によりメガスピードにて各部を分解整備したものです.

点検の為にリヤブレーキペダルを数回動かすと,ダストブーツ下部から液体が漏れてきました.



図1.1 ダストブーツ下部から漏れ出しているブレーキフルード

 図1.1はリヤマスターシリンダダストブーツ下部に漏れだしている液体の様子です.

部位からブレーキフルードである可能性が極めて高いといえます.



図1.2 ブレーキフルードであふれているブーツ内部

 図1.2はマスターシリンダを車体から取り外し,ブーツをめくった様子です.

内部にはかなりの量のブレーキフルードが漏れていました.

動かさずに長期保管されていたことから,ブレーキフルードは液圧による漏れではなく,

セカンダリピストンカップからの自然落下であると推測されます.



図1,3 潰れたホースと錆びたクランプ

 図1.3はマスターシリンダ接続部リザーバタンクホースの様子です.

ホースそのものに1986と刻印があるように,発売当時のものであることから劣化しており,

特にクランプの錆が著しい為,ホースの締め付け性能が低下していると判断することができます.



図1.4 劣化したピストンカップセット

 図1.4は取り外したピストンカップセットの様子です.

スプリングには大きな衰損等は見られないものの,カップはプライマリとセカンダリの両方で張りが失われていました.



図1.5 張りの失われているセカンダリピストンカップ

 図1.5はセカンダリピストンカップを拡大した様子です.

ブレーキフルードの固形化した堆積物が付着しているとともに,ゴムもシリンダ形状に潰れていて,

密封性能が落ちていた為,ブレーキフルードがカップの下流に漏れだしたものであると考えられます.



図1.7 シリンダ内部

 図1.7はマスターシリンダ内部の様子です.

シリンダそのものには目立つ傷等はなく,真円度,円筒度ともに異常は見られませんでした.



図1,8 塗装のはげた見苦しいマスターシリンダ外観

 図1.8は取り外したマスターシリンダ外観の様子です.

全体的に塗装が浮いており,軽く触れただけでズルズルとむける状態でした.

これでは機能云々以前に見ただけでも部品の状態が悪いことが印象付けられ,

貧相な外観は大変見苦しいといえます.



【整備内容】

 マスターシリンダ内部の状態は比較的良好であることから,再使用することにしました.

しかし塗装がはがれており,そのまま使うにはあまりにも外観が見苦しい為,

再塗装して美しさを取り戻した上で使用しました.



図2.1 再塗装されたリヤマスターシリンダ

 図2.1は再塗装されたリヤマスターシリンダ外観です.

今回の整備では艶消し黒で塗装を実施しました.

やはり整備されたものという意識を高める為にも再塗装は有効であり,

外観の美しさが車両を所有する喜びを一層ひきたてます.



図2.2 洗浄されたシリンダ内部

 図2.2は点検洗浄されたシリンダ内部の様子です.

精密測定における真円度や円筒度に異常は見られず,また目立つ傷や破損等もない状態でした.



図2.3 新品のピストンカップセット

 図2.3は新品のピストンカップセットの様子です.

取り外した古いカップに比べてゴムの張りが大きいことが確認できます.

これにより,点検洗浄されたシリンダとの密封性能が取り戻され,液漏れが解消されます.



図2.4 組み立てられたマスターシリンダ

 図2.4はリターンスプリングを含めたピストンカップセットをシリンダに取り付けた様子です.

確実に密封していると同時にプッシュロッドが滑らかにストロークすることを確認しました.



図2.5 新品のホース(左)と取り外したホースの比較

 図2.5は新品のリザーバタンクホース(左)と取り外したホースを比較した様子です.

取り外したホースはクランプで長年締め付けられていた部分が完全に潰れていて,細かな亀裂が発生していました.

すでに純正部品は絶版である為,別の型式の新品ホースを流用しました.

形状は若干異なるものの,内径は同一でありゴムの弾性の範囲内で取り付けが可能であることを確認しました.

やはり20年以上経過しているゴムホースを,

特にブレーキの様な最重要機関に対して再使用するというのは極めてナンセンスであり,

可能な限りその様な事態を避け,新品に交換される必要があります.



図2.6 整備の完了したリヤブレーキ廻り

 図2.6は整備の完了したリヤブレーキ廻りの様子です.

ブレーキホースは経年を考慮し,PLOTのSWAGE-LINEに交換することにより,信頼性を向上させました.

キャリパも同時にオーバーホールを実施し,再塗装することにより,

同じく再塗装されたリヤホイールや新品のリヤサスペンションとあいまって美しい色彩を再現することができました.

この様に古い車両のみすぼらしかった外観が美しく蘇るのは,

お客様はもとより整備技術者としても非常に喜ばしいことです.



【考察】

 この車両は長期間乗らずに保管されていたものですが,走行距離が約3,900km程度であることから,

今回のブレーキフルード漏れの原因はまさに経年による劣化であると考えることができます.

物は使えば減りますが,使わなくても時間が経てばダメになります.

部品は製造された瞬間から品質低下を発生させます.

この事例では車両が使用されずに長期保管されていたことから,

ブレーキフルードの漏れは傷んだゴムの密封性能低下による自然落下であると考えることができます.

つまり今回の原因はセカンダリピストンカップの劣化による衰損と結論付けられます.


 不具合を発生していたものの,公道を走行する前にお客様から各所分解整備のご依頼をメガスピードにて承っていた為,

ブレーキフルード漏れという非常に重大な不具合を修理してから安心して乗ることができるようになりました.

万が一ブレーキが故障したまま使用して大惨事に至った場合は,

自身のみならず周囲の交通を巻きこむことになり負の連鎖が発生します.

しかし現実には,中には全く点検整備されていない,

あるいは素人整備されてしまった危険な車両が公道を走行しているという大変憂慮すべき事態が発生しています.


 やはりブレーキ廻りに関しては,正しい知識・技術・経験をもった整備技術者が

定期的に点検整備すべき最も重要な機関であり,特に発売から20年以上経過している古い車両に関しては,

リヤブレーキキャリパも含めてブレーキ廻りを総合的に見ておく必要があるといえます.


 今回の事例では,リヤマスターシリンダの塗装がはがれて見苦しかった為,

整備すると同時に再塗装を行い美しい外観を取り戻しました.

不具合を発生させる時期に至っている車両は,マスターシリンダの塗装がはがれていることが少なくありません.

したがって,塗装状態が悪ければ,それは相応の環境にあったと推測することができ,

また逆に整備が施された場合には,外観も整え,内外ともにリセットしておくことが今後の指標にもなるといえます.





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