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事例:S‐35

ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのフォークオイル漏れについて


【整備車両】

 RG250EW (GJ21A) RG250Γ(ガンマ) 1型  推定年式:1983年  参考走行距離:約11,500km


【不具合の状態】

 右フロントフォークANDFからフォークオイルが漏れ出していました.


【点検結果】

 何かオイルの様なものがフロントフォークから漏れているということでお客様から修理のご依頼があり,

今回は引き取りのご要望があったので,出張でお預かりにお伺いしました.



図1.1 ANDFから漏れ出しているフォークオイル

 図1.1は右フロントフォーク下部にフォークオイルが漏れ出している様子です.

ANDFには上部のブレーキホースとの接続部からブレーキフルードが,

下部のフロントフォークとの接続部からフォークオイルがそれぞれ内部に流入しています.

今回のオイル漏れはオイルの色と漏れ出し部分からフォークオイルが漏れているものと判断しました.

黄色の四角Aで囲んだ部分はANDFの下部から漏れ出しているフォークオイルです.

重力で落下し黄色い四角Bに当たるアクスル部,

更に黄色い四角Cのフォーク最下部までオイルが流れ落ちていることが分かります.

このままではフォークのサスペンション性能が低下するばかりでなく,

何らかの形でブレーキ廻りにオイルが付着すれば制動力の著しい低下をもたらし非常に危険です.

ANDFは上側にはブレーキフルード,下側にはフォークオイルが満たされており,作動時にそれぞれ油圧がかかります.

そしてそれらの液体を密封する為のシールが内蔵されています.

今回の事例ではフォークオイルが漏れていたので,フォークオイルを密封するシールが衰損していると判断できます.



図1.2 上下に分割されたANDF

 図1.2はANDFをブレーキフルード側とフォークオイル側に分割した様子です.


黄色い四角で囲んだaとbはインジケータホールで,

ブレーキフルードを密封するオイルシールが衰損した場合はaから,

フォークオイルを密封するオイルシールが衰損した場合にはbから,

それぞれの液体が外部に漏れ出し,内部の密封性が失われていることを示します.


今回の事例ではフォークオイルの密封性能が損なわれ,bからオイルが漏れ出していました.

すなわちBの内部のシールの機能が低下していたものであるといえます.


 メガスピードで整備を承った別の車両ではaからブレーキフルードが漏れ出していました
※1




図1.3 分解されたANDF

 図1.3はANDFを分解した様子です.

AとBはそれぞれ図1.2のAとBを分解した中身です.

フォークオイルが入っているのはBであり,それを密封する機能はCのシリンダASSYで構成された部品です.

その中の①と②がオイルを密封する部品であり,①が外周との接触部を密封するOリング,

②が軸と内周を密封するオイルシールです.

そして①と②を含めたCを組み立てたものが図1.4です.




図1.4 ANDFフォークオイルシール部

 図1.4は図1.3のCであるシリンダASSYを組み立てた様子です.

①のOリングはシリンダASSYとANDF内部を,②のオイルシールはピストンとシリンダASSYをを密封する機能があります.

今回の事例はいずれかが衰損していた為にANDF外部にフォークオイルが漏れ出したものでした.


【整備内容】

 ANDFはASSY扱いであり、すでに純正部品が絶版になっています.

中古のANDFを使用するという選択肢も考えられますが,

すでにその中古部品も製造から30年近くの経年があり,

この車両の様にいつオイル漏れが発生してもおかしくはなく、むしろ当然であり、信頼性の観点から使用しませんでした.

内部の各シールは入手困難であり,またそれを金型を含め新規に設計製造した場合,

投資に見合う利益はおろか,投資額の回収もまず不可能であると見込まれることから,

今回はフォークの根元からオイルの流入経路を断ち,オイル漏れを防止する方法をとりました.




図2.1 専用に設計作成されたアルミ合金プレート

 図2.1は新規に設計製作されたアルミニウム合金のプレートです.

純正のOリングを使用することでシール機能に信頼性を確保しました.




図2.2 フォークに取り付けられたプレート及びダイレクトにキャリパに配管されたブレーキホース

 図2.2はプレートをフォークのANDF取り付け部に装着した様子です.

ブレーキラインはプロト【PLOT】製のスウェッジライン【SWAGE-LINE】を使用することにより,

ANDFへの分岐をなくしてストレートでキャリパに接続し,ブレーキ系統とオイル系統の関連性を独立させました.

ほとんどの中古のGJ21AはANDFを分解すれば明らかですが,

数十年分のブレーキフルードの固着物が内部で固着していて、まったく機能が発揮されていないことが分かります.

しかし,ANDFを取り外したことには変わりないので,

その代替としてメガスピードではフロントフォークのセッティングを変更し,

ANDFがなくても今までと変わらず違和感のないライディングフィールを得ることに成功しています.



図2.3 整備の完了した車両外観

 図2.3はANDFを取り外してアルミ合金プレートで蓋をし,ブレーキラインを変更した車両外観の様子です.

今回漏れていたのは右側のみでしたが,左側も近い将来同じ症状を発生させることが予測される為,

合わせて左側も同様に整備しました.

ANDFの動作に必要なブレーキフルードの液量がなくなったことにより,

キャリパピストンにマスターシリンダからの圧送されたブレーキフルードがすべてかかる為,

圧力のかかり始めやブレーキフィールがダイレクトになりました.

またフロント廻りの煩わしい配管がなくなり,全体的にさっぱりした仕上がりになりました.


そして厳密にいえば,ANDF及びブレーキキャリパとANDF間のブレーキホースの代わりに,

アルミ合金プレートが使用されたことにより足廻りが軽量化され,

ブレーキラインの一本化されたキャリパと合わせて尚一層運動性能が向上しました.


【考察】

 ANDFはブレーキの入力に応じて減衰力や伸張力を調整する機能をそなえています.

しかしそれも発売から30年近く経た車両ではほとんどのものが機能していないのが実情です.

しかも今回の事例の様に,オイル漏れを発生させるには十分な程内部の経年劣化が進んでいるといえ,

フォークオイルやブレーキフルードが漏れ出している車両も少なくありません.

内部のオイルシールがメーカーの純正部品ではASSY扱いで存在せず,そのASSYもすでに絶版になっています.

したがって,今回は信頼性の低い中古を使用することを避け,

NC旋盤で製作された専用のアルミ合金プレートをANDFの代わりに取り付けました.

またそれに応じてブレーキラインはストレートでキャリパに接続し、フォークとブレーキの連動を切り離しました.

それによりサスペンションとブレーキの機能が独立して周囲の取り回しがスッキリするばかりでなく,

新品を組み付けたので、耐久性にも信頼がおけ、安心して乗ることができるようになりました.

またANDF動作に必要なブレーキフルードのロスがなくなり,油圧のかかりが最適になり,

ブレーキフィーリングが向上しました.


 発売当時のオリジナルの形状にこだわるのであればシール類を新規に設計製作する為に大きな投資が必要になります.

しかしそうではなく,見た目は変化しながらも性能が回復すれば良い,更に信頼性が高まれば良い,ということであれば,

今回の事例の様な対応が可能になります.

メガスピードではRG250Γ(GJ21A)初期ガンマをはじめ各Γシリーズのお客様に対して,

安心して乗っていただける様日々技術向上に努めてまいります.






※1 “ANDF (Anti Nose Dive Fork) からのブレーキフルード漏れについて”






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